私の研究の原点は、訪問診療や介護施設勤務など地域の臨床経験を通じ、病院・地域の連携不足など、医療をサービスとして評価する必要性を痛感したことにあります。その後、博士論文として往診医師の重要性と住宅改修の効果(いずれも日公衛生誌1990)を示し、また、ハーバード公衆 衛生大学院でヘルスサービスリサーチ(以下、HSR)という概念に出会い、我が国初のHSR分野を開講するなど、一貫して、①介護保険制度評価、②かかりつけ医師推進、③介護家族の実態、④在宅・施設ケアの評価、⑤法医公衆衛生学を研究の柱してきました。
主である①では、サービス利用規定要因としての家族の重要性(IJQHC)、地域リハビリテーションに戸別送迎が必須であること (IJQHC, BMC Geriatrics)、ショートスステイ利用と本人の介護度悪化の関係(BMC Geriatrics)、さらにはランセット日本特集で、介護保険を世界に紹介しつつ、全国データ分析により高所得層の介護者にのみ効果が高いことを示しました (Lancet)。さらに、介護保険支出の最大要因は施設ケアの高介護度者であること(BMC HSR)、訪問看護利用の抑制要因(BMC Geriatrics)等を示しました。②では、在宅総合診療所の推進要因を医師会と共同研究で示し(プライマリーケア学会誌)、また、医師 の意見書分析から、かかりつけ医師の重要性を示す研究、またプライマリーケア医師の国際比較などを進めています。③では、嫁の介護で生存時間が短いこと(BMC Geriatrics)など、④では、在宅生活継続への訪問看護の有効性(GGI)、施設看取りでの医師の役割(Health Policy)や、施設ケアにおけるアウトカム評価(GGI)等を示しました。⑤では、法医学データにより孤独死対策への基礎データを示しました(BMJ open)。
これらの研究と、公衆衛生の人材育成の経験を基盤に、研究室の仲間や志を同じくする仲間達とともに、象牙の塔からの一歩踏み出し、より社会に貢献できるヘルスサービスリサーチを目指し、本機構を設立しました。大学における研究の推進とそれに基づく社会実践のバランスよいシナジーを目指し、皆様とともに頑張っていきたいと思います。